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千葉地方裁判所 昭和62年(ワ)412号 判決 1992年6月25日

原告

高石正博

林熊吉

中村仁

角田清明

林利明

相原照二

江口治男

中村俊六郎

塩崎昭広

多田正雄

伊藤隆

右一一名訴訟代理人弁護士

葉山岳夫

菅野泰

清井礼司

内藤隆

山崎恵

竹之内明

阿部裕行

加城千波

被告

東日本旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役

住田正二

右訴訟代理人弁護士

西迪雄

富田美栄子

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)(主位的請求)

原告らが被告に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

(二)(予備的請求)

被告は、原告らに対し、それぞれ一〇〇万円及びこれに対する平成元年一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  1の(二)につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(一) 原告らは、いずれももと日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)に雇用され、その職員であった。

(二)(1) 国鉄

国鉄は、鉄道事業を含む日本国有鉄道法上の法人であったところ、昭和六二年四月一日、日本国有鉄道改革法(以下「改革法」という。)及び日本国有鉄道清算事業団法(以下「事業団法」という。)に基づき日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)に移行したものとされている(もっとも、国鉄との間に企業の同一性がないことは、後記のとおりである。)。

(2) 被告

被告は、改革法及び旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(以下「新会社法」という。)に基づく設立手続により設立され改革法上承継法人とされている会社(以下「新会社」という。)の一つであり、国鉄から、東北及び関東旅客輸送事業を引き継いだ。

2  原告と国鉄間の労働契約関係の承継

(一) 当然の承継

(1) 国鉄分割・民営化の目的

昭和五八年六月に設置された国鉄再建管理委員会が同六〇年七月に提出した最終答申によれば、国鉄財団の破たんの原因は、公社制度及び全国一元的組織に求められ、これを除去するために経営形態を改め、適切な事業単位に分解するとともに、民営化を行うことが必要であるとされた。右答申の基本は、国鉄の解体―消滅にあるのではなく、国鉄自体の承継を大前提としたものである。そして、政府は、右答申に基づいて立法化作業を進め、同六一年の第一〇七臨時国会において改革法をはじめとする一連の国鉄関連法案を成立させた。

(2) 国鉄と被告との実質的同一性

右のような立法目的をもって成立した改革法が国鉄の事業等の新会社への引継ぎを規定したことは極めて当然のことである。国鉄と各新会社は実質的かつ本質的部分において連続性・同一性を有しており、企業としての実体には何らの変更がなく、国鉄再生に必要な限度での経営形態の変更があったに過ぎない。すなわち、

ア 被告を含む新会社は、株式会社とされるが、①運輸大臣が新会社ごとに命ずる設立委員会によって設立され、②その資本は国鉄の全額出資とされており、しかも株式の民間への売却(民営化)については何ら規定されておらず、当分の間国鉄・事業団が一〇〇パーセント株式を保有したままであり、③新株発行、社債募集、借入金、代表取締役・監査役の選定・選任・解職・解任の決議、事業計画、重要な財産の譲渡、定款変更等はすべて運輸大臣の認可を必要とされ、新会社が本来の旅客鉄道事業及び貨物鉄道事業以外の事業を営む場合にも、運輸大臣の認可を受けなければならないなど、現在の地方鉄道事業者のように広範囲な事業を営む自由は与えられておらず、それらの制約に加えて、財務諸表の運輸大臣への提出、運輸大臣による業務上の広範な監督・検査・役職員に対する罰則等が定められているのであって、実質は必ずしも民営化とはいい難く、新会社法の存続する限り、一般の私的法主体(特に私鉄)とは異なる国の意思に基づき目的(公共的性格)を与えられて設立された特殊法人であり、国鉄と異なるものではなく、その実質は国鉄の輸送業務・営業用資産及び国鉄の債務の一部をそのまま承継する分割された国鉄というべきである。

イ 他方、事業団は、国鉄改革の実施に伴って新会社等が鉄道輸送等の事業の引継ぎ、権利義務の承継を受けた後に、国鉄が抱えている長期債務の償還・国鉄の土地その他の資産の処分等を行うとともに、臨時に職員の再就職の促進を図ることを目的とする清算法人として設立されるものであり、過去の国鉄経営の破たんから生じた責任を一身に引き受けてその清算に当たる特殊法人の一種であり、国鉄との間には企業の同一性は全く存在しない。原告らの雇用関係にしても当然に事業団に承継されるものではない。事業団の職員は、理事長が任命するものとされており(事業団法一七条)、改めて任命行為があって初めて事業団の職員となるものである。

ウ こうして、被告を含む新会社は、①国鉄の旅客・貨物の輸送事業及び営業用資産並びに債務を分割してではあるがそのまま承継し、②一部機構の改革はあるものの国鉄の現行機構を原則として踏襲しており、施設・事務所等も基本的に国鉄の現行のものを使用し、③トップ人事の一部を除いて国鉄の役員・幹部職員がそのまま新会社の役員・幹部社員となり、④一般職員も国鉄の中からのみ「採用」し、他に新規採用はなく、その「採用」手続もすべて国鉄によって実施され、⑤新会社における職員の配置もすべて国鉄が行ったものである。

したがって、被告を含む新会社と国鉄とは、経済的に見て単一体の実質を有するというべきである。

(3) 営業譲渡に基づく労働関係の移転

仮に新会社が国鉄と経済的に見ても単一体の実質を有しないとするならば、国鉄分割・民営化の本質は、企業主体の変更ないしは営業譲渡に外ならないから、労働関係は、新会社に承継されるものである。

改革法六条一項は、国鉄の分割・民営化を、国鉄の鉄道事業について「その事業の経営を分割」し、「その経営組織を株式会社とするもの」としている。被告は、承継計画に従って関東・東北における国鉄の事業及びそれに必要な資産のすべてを承継しており、企業としての実体には何らの変更はなく、ただ経営組織形態の変更のため、国鉄は、事業を分割の上、被告に対し、その営業を譲渡したに過ぎない。

営業譲渡において、労働関係が譲渡人から譲受人に移転することは一般に承認されているところであるが、それは、労働関係が物的資産と有機的一体となって企業を構成するものであり、その中から特定の労働関係の排除を認めることは、営業譲渡の名目の下に自由な解雇を認めることになり、それは労働権の保護、雇用保障の観点から許されないから外ならない。

そして、国鉄分割・民営化は、それが法律に基づくものではあるが、企業実体に何ら変更がない営業の分割譲渡であり、労働関係の承継についても右の営業譲渡の場合と同様に解すべきものである。改革法は、承継法人の職員について退職金の不支給、在職期間の通算を規定しているが、営業譲渡以外にこのようなことは考えられない。

(4) 以上のとおり、分割・民営化が各新会社による国鉄の分割された企業実体の包括的承継である以上、企業実体の本質的構成要素である雇用関係もまた、企業実体の分割に照応して分割されるとはいえ、包括的に承継され、国鉄の職員が当該業務に従事していた国鉄の当該企業実体を承継する各新会社の職員たるべき地位を当然に有することになるのは自明の事柄である。現実的に考えても、事業を具体的に遂行すべき労働者が承継されるのでなければ企業の承継はあり得ない。鉄道業務の遂行には高度の技術・能力・経験・熟練等が要求され、かつ、新会社への移行に当たっては事業の一瞬の中断も許されないことを考えれば、このことにより一層明らかである。

(二) 法人格の濫用又は改革法二三条の無効

(1) 法人格の濫用

仮に国鉄における労働関係が企業主体の変更ないし営業譲渡により新会社に承継されないとするならば、新会社の設立は次のとおり国鉄の原告ら職員に対する労働契約上の義務を免れるためのものであって、新会社の法人格は、否認されるべきである。

ア 改革法における国鉄分割・民営化論は、前記のとおり、国鉄の経営破たんの原因を全国単一公社制という国鉄の経営組織体にあるとするものであるが、しかし、国鉄赤字の原因は、基本的には、①新幹線等の過剰な設備投資、②海外復員者の大量雇用の結果としての年金財政の圧迫、③低額な国庫補助に求められるものであり、膨大な活用可能な資産を有しながら、それを活用できずに運賃収入に依存せざるを得なくしていたのは、④事業目的の制限、⑤監督官庁のばく大な介入権限に原因があり、全国単一公社制の問題ではない。

イ 国鉄は、①国民生活の足であり(通勤・通学)、②国民経済発展のための重要な社会資本であり、③地域の文化・環境の一翼を形成しており、④多くの職員を雇用していたという面で、国の雇用政策を分担しており、⑤他の公共交通・運輸手段とともに一定の競争秩序の中にあって国の交通運輸政策の一端を構成していた。このような国鉄を廃止するためにはそれなりの合理的根拠と国民的合意が必要であるにもかかわらず、国鉄改革関連法の審議には改革の発足を同六二年四月一日に定めておいてそこから逆算して議会の審議日程を決め、各種資料の公開を議会で審議するぎりぎりの段階まで延ばし、所管が各省庁にまたがる改革関連法の問題を国鉄改革特別委員会の一括審議にゆだね、改革関連法の施行法令も一五一件にわたる事項を一括法案で処理した、等の問題があり、これでは分割・民営化に反対する意見を初めから封殺したといわざるを得ず、国鉄廃止について法律の成立過程自体が合理的根拠のないことを示している。

ウ 国鉄が倒産状態にないことは、①その経常収支は黒字基調になっており、②保有資産も土地だけで五〇兆円とも、二〇〇兆円ともいわれ、日本国有鉄道法六条の改正により、この資産を活用して関連事業への進出と拡大を行い、収益の増加と雇用の確保をすることが十分に可能であった。

このようにみてくると、国鉄の分割・民営化の主たる目的が国鉄労働運動の解体にあったことは明らかである。国鉄労働運動は日本で有数の革新的力量を持つ労働運動であるが、この労働組合の勢力の弱体化が、国鉄分割・民営化答申を受けた組織機構の改革問題=分割民営化の遂行のうちにおいて常に意識的に追求されてきたのである。

(2) 改革法二三条の無効

仮に国鉄と新会社との間の国鉄職員の雇用関係の承継が否定されかつ新会社の法人格が否認されず、改革法二三条が新会社の設立委員に対して創設的に職員の採用につき自由裁量権を付与したものであるとするならば、同条は、憲法二八条に違反し、無効である。なぜならば、雇用関係は労働条件のうちの最も重要なものであるにもかかわらず、国鉄職員には公共企業体等労働関係法の適用が除外される日以降の雇用関係について同法により争議行為が禁止され、しかも国鉄は採用は設立委員が決めることだからと言い、設立委員は名簿登載者は全員採用し名簿登載・不登載は、国鉄のやることだからと言い、そして再び国鉄は名簿の登載・不登載は設立委員の提示した採用基準をそのまま適用したに過ぎないからと言って、職員の承継について相互に自己に責任のないことを根拠に団体交渉を拒否してきたのであり、同法に適用除外で争議権・団体交渉権が職員に回復されたときには、不採用者には既に争議権・団体交渉権の前提となる雇用関係が消滅していて、それを行使する余地がないから、改革法二三条は、国鉄職員の持つ争議権・団体交渉権をすべて否定することになるのである。

3  設立委員の採用手続違背

仮に改革法二三条が有効であるならば、設立委員の採用手続に同条に反する違法がある。

(一) 被告の従業員採用手続

(1) 承継法人の設立委員は、昭和六一年一二月上旬、国鉄を通じて原告から国鉄職員に対し新会社の労働条件及び採用基準(被告については別紙1のとおり)を提示した。

(2) 国鉄は、同月二四日から同六二年一月七日までの間、原告ら国鉄職員に対し、希望順位を付して新会社の従業員になる意思を国鉄総裁に対して表明するものである意思確認書の提出を求めたので、原告らは、右期間内に、国鉄に第一順位希望先新会社を被告とする意思確認書を提出した。

(3) 国鉄は、その後、新会社の従業員になるべき者を選定し、同六二年二月八日、設立委員に各新会社の従業員になるべき者を記載した名簿を提出したが、右名簿には、原告らは記載されていなかった。

(4) 設立委員は、同月一六日、国鉄職員に対し、新会社への採用内定の通知をしたが、原告らにはこれをしなかった。

なお、改革法二三条五項によれば、職員の採用について設立委員がした行為及び設立委員に対してなされた行為は、それぞれ新会社がした行為及び新会社に対してなされた行為とする、とされている。

(二) 基本計画による定員採用義務

(1) 改革法二三条一項の採用基準は、運輸大臣が内閣の決定をもって定めた「日本国有鉄道の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数」を採用するためのものであり、採用人数が採用定数を割り込んでいる場合には、採用基準は効力を有する理由がない。

(2) 前記最終答申は、「昭和六二年度までに完全に私鉄並みの生産性を実現することについては、現行の国鉄における合理化の進捗状況から見てやや無理があると考えられる。また、余剰人員が膨大であることにかんがみ、旅客鉄道会社にも経営の過重な負担とならない限度において余剰人員の一部を移籍させることが適切である」として、新会社の適正要員規模は全体で一八万三〇〇〇人であるが、新会社への移行時点で旅客鉄道会社に鉄道旅客部門の適正要員規模の二割程度(三万二〇〇〇人)を上乗せした要員を移籍させ、この上乗せ要員については旅客鉄道会社において関連事業の積極的展開で逐次その有効な活用を図るとしている。しかし、関連事業の要員とはいっても、関連事業の展開自体が将来的・不確定である以上、それに割り当てる具体的な算定は不可能であるから、結局この三万二〇〇〇人という要員数の「移籍」は、雇用保障すなわち新会社による「採用」の義務付けをいっていると考えられる外はないことになる。

国会審議の中では、新会社の適正要員は最終答申の段階から三〇〇〇人増えて一八万六〇〇〇人とされたが、新会社発足の適正要員は二一万五〇〇〇人とされており、右の要員数が「採用」義務付けであることは、衆参両院の特別委員会における橋本運輸大臣の答弁において明らかにされている。

(3) 承継を定めた改革法一九条は、承継の基本計画を運輸大臣に定めさせ、閣議の決定を経るべきものとした上で、その基本計画においては「承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲」「承継法人に承継させる資産、債務並びにその他の権利及び義務」と並んで「日本国有鉄道の職員のうち承継法人となるものの総数及び承継法人ごとの数」を定めることを求めている。この規定は、国鉄の事業・資産等の物的組織が承継されるのと同様に、国鉄職員もまた承継法人に承継されることを前提に、その「数」について基本計画で定めることを求めたのである。このような規定の置かれた経緯は、本項(2)で述べたとおり、「余剰」人員が存在し、職員の全員を承継することはできないとし、承継する職員の数を定めることが必要になったために過ぎず、また、原則的には承継させることを前提にしたので、その「数」を基本計画において掲記させ、最低限それだけの人数は承継させることによって、いたずらに事業団に行かさせる人たちを出さないための歯止めとさせたものである。

(4) 同条を受けて同法二三条に規定された職員の具体的承継手続は、右に述べてきたところから明らかなように、国鉄における「余剰」人員の存在と分割後の各承継法人の経営体制に応じた職員構成を採る必要性から採用された立法技術的性格のものである。

すなわち、同条は、多数の余剰人員が存在するため各承継法人に承継されるべき人数に限界があり、かつ、国鉄を承継する新会社その他の承継法人が複数であることから、国鉄職員を承継法人と事業団に、そして、前者についてさらに承継法人ごとに振り分けるための手続を定めた技術的な規定に過ぎない。

(5) したがって、同条の定める、国鉄による職員選定、名簿作成は、承継法人の「採用」を希望する国鉄職員数が閣議の決定をもって定めた承継法人の職員数を上回ったときに初めてなされるべきもので、「採用」希望者数が「日本国有鉄道の職員のうち承継法人の職員となる者の総数及び承継法人ごとの数」を下回ったときは、職員選定、名簿作成の余地はなく、したがってまた「採用基準」が機能する余地もなく、希望者がそのまま引き継がれることになり、同様に同条三項に定める設立委員等の「採用」手続の余地はなく、国鉄から被告らに対して当然に雇用関係が引き継がれると解すべきである。

そうだとすると、基本計画において被告の要員数は八万九五四〇名と定められていたが、被告の採用予定候補者名簿への登載者数が八万四三四三名に止まり、五〇〇〇名以上のいわゆる定員割れの事態が生じたのであるから、もはや、余剰人員対策を行う余地はなく、改革法二三条によって職員選定、名簿作成、採用基準の適用を行うことは許されない。

(三) 原告らの除外の無効

(1) 仮に定員割れの場合でも改革法二三条の適用があると解するとするならば、同条の定める一連の採用手続において、原告らを除外することは、次の理由により無効である。

なお、同条二項は、設立委員の定めた採用の基準により国鉄が被告の従業員となるべき者を選定し、その名簿を作成することを規定しているが、被告の従業員採用に関する被告会社と国鉄の実質的な共通関係を踏まえれば、右選定行為及び名簿作成行為(その反面としての選定からの排除行為、名簿作成からの排除行為=解雇)は、いずれも国鉄が被告の設立委員の履行補助者、事務代行者又は被告の設立委員から委任(準委任)を受けた受任者としてしたものであり、その法律効果は、すべて被告に帰属する。

(2) 不当労働行為による無効

ア 原告らは、いずれも国鉄千葉動力車労働組合(以下、単に「動労千葉」という。)の所属組合員であり、動労千葉は、国鉄千葉鉄道管理局内の動力車に関係あるもので組織された労働組合であって、組合員数は、現在八〇〇名である。

イ 不当労働行為の私法上の効力について、これを解雇事例について見ると、不当労働行為たる解雇が私法上も当然無効(理論構成に差はあるが)であることは、今日、判例・学説上争いがない。

これを本件について見ると、本件は、人的・物的に同一性ないし連続性を有する国鉄と被告との間で、国鉄職員のうち原告外ごく一部の者が右両者間の承継手続から除外されたという実質的な解雇事案であり、かつ、このような違法・不当な取扱いは原告らに対してのみでなく、全国各地で被告(と国鉄)の指導に基づいて組織的・計画的・統一的に敢行されたみぞうの規模(承継除外=解雇、配転、出向、組合脱退強要など)を有するものであり、したがって、被告には強固な不当労働行為意思が存在するという点に最大の特徴がある。

ウ 橋本運輸大臣は、国会において「労働処分を明示するかたちで勤務成績を示すことはあり得ない」「特定の労働組合の組合員であるとか、労働組合の正当な行為をしたことを理由に新会社への採用が拒否されるというようなことが絶対にあってはならない」と答弁し、参議院国鉄改革特別委員会は、「……職員の採用基準及び選定方法については、客観的かつ公平なものとするよう配慮するとともに、本人の希望を尊重し、所属組合等による差別等が行われることのないよう、特段の留意をすること」との付帯決議をしている。ところが、国鉄は、六か月以上あるいは二回以上の停職処分を選定基準とした。この選定基準は、概略次のような経過の中から出てきたものである。

(ア) 「承継法人の職員となることの意思の確認」についての「意思確認書」は、同六一年一二月二四日、五五歳以上の者、希望退職や他への就職等が決定していた者達を除く国鉄全職員二三万四〇〇〇人に配付された。すなわち、設立委員の示した別紙1の「採用基準」1、4、5及び6に該当する者は、あらかじめ配付対象外とされていたものである。

(イ) 「意思確認書」は同六二年一月七日までに二二万七六〇〇人分が回収されたが、そのうち希望する承継法人を書かずに白紙で提出した者や、事業団を希望した者等を除き、承継法人を希望した者の数は総数で二一万九三四〇人であったが、これは基本計画による定員数二一万八〇〇〇人を全国集計で四三四〇人上回るだけに止まり、この時点で既に北海道及び九州は基本計画の定員を上回るが、逆に本州及び四国では右の定員に満たない数になっていることが明らかとなった。この定員割れの事態は、動労千葉や国鉄労働組合(以下「国労」という。)など国鉄分割・民営化に反対する組合の組合員を排除しようとしていた国鉄当局にとっては大きな誤算となった。動労千葉や国労の組合員を新会社から排除できなくなってしまったからである。こうして、同年二月二日の時点では国鉄当局も国鉄再建管理委員会もそして当然に新会社設立委員らも、「不採用」者を出すことなく「国労でも動労千葉でも全員を採用せざるを得ない」と判断していたのである。

(ウ) このような状況に対して「雇用防衛のために大いにやった組合」は、一斉に反発することになり、「定員割れまでするようでは国労や動労千葉の闘士の大半が新会社に入ってくる労政には問題があった」とする住田正二(現被告代表取締役)を押す「行革派」と手を結ぶことになる。そして、動労、鉄労のほかの分割・民営化賛成の労働組合が同六一年七月に結成した改革労協は、同六二年二月二日の鉄道労連結成大会において「……国鉄行革に反対する不良職員が採用されかねない。……職員の採用にあたっては、改革に努力している職員と努力せずに妨害している職員を区別するのは当然であり、我々はこのことを強く主張し、具体的な処遇を求め全力をあげて闘う」との決議をなした。要するに労働組合が労働者の排除を公然と要求したのである。

(エ) この鉄道労連結成大会を巡って事情は一変した。すなわち、国鉄は、同月一五日の設立委員会において名簿を提出したが、この名簿に原告らが登載されていたか否かは不明であるが、右の決議を受けてこの設立委員会開催前になされていたとすれば名簿には「不登載」だったことになろう。名簿作成の資料としたとされている(同六一年一一月二〇日の参議院特別委員会における国鉄総裁杉浦喬也(以下「杉浦」という。)の答弁)職員管理調書には、特記事項として「一般処分」「労働処分」の欄に

「(1)停職の処分通告を受けた回数は何回か。

①無 ②一回 ③二回 ④三回以上(二)停職の処分通告を受けた回数は何年度か。(複数選択可)

①処分通告を受けたことがない ②五八年度 ③五九年度 ④六〇年度」という記載はしているものの、停職処分が何か月かの記載欄はない。したがって、「六ケ月以上あるいは二回以上」という場合の「二回以上」については、職員管理調書の(1)③・④をそのままデータベースとして用いることができるが、一回のみ〔(1)②〕の場合には、それが六か月以上かそれ未満かを判定するためには、職員管理調書以外の資料を検索しなければならなかったことになる。したがって、少なくとも「六ケ月以上」という選定基準は考えていなかったことは明らかである。

(オ) 「六ケ月以上あるいは二回以上の停職処分」という選定基準は、鉄道労連二・二決議に応えるため急きょ設定されたものであって、その意図自体が前記の国会答弁や付帯決議に違反する違法・不当なものである。これは結局、国鉄当局も設立委員も基本計画による定員の意味を十分にわきまえていたにもかかわらず、あえて原告ら一一名をはじめとする動労千葉や国労の組合員などで七七名を採用しなかった、ということを物語っている。

エ したがって、「六ケ月以上又は二回以上」という基準の設定自体が、採算・ビルト局として要員の必要な国鉄千葉鉄道管理局エリアからあえて優秀な原告ら動労千葉組合員を排除しようとする意図を持っていたことは明白なのである。しかも、懲戒処分についても「一事不再理」の原則が妥当とすることを考えれば、原告ら一一名については、動労千葉組合員であることをもってあえて二重処分をしているということになる。そして、本人の勤務成績や素行とは関係のない労働処分の場合には、本人にとっての当該労働処分の直接の原因をなした所属組合からの脱退までいかなければ、反省のない「悪い子」のままだとされてきている経過があるから、右の選定基準の主眼が労働処分に置かれていたことは明らかであり、しかも右の選定基準の前記の「出生の秘密」から、それが動労千葉や国労つぶしという不当労働行為を意図したものであることも明らかである。

オ そして、国鉄は、設立委員から提示された採用基準を原告に適用するに際し、同五八年四月一日から同六二年三月三一日までの四年間に停職六か月以上の処分を受けたこと又は停職処分を二回以上受けたことの有無を基準と設けた上、原告らは別表のとおりの処分歴を有するとして、原告らを被告の設立委員への採用予定候補者名簿に記載しなかったのである。これに対し、鉄労に所属し、同五七年八月中旬ごろに売春防止法、児童福祉法、宮城県青少年条例の各違反(新聞報道による。)を犯し、同六三年九月に逮捕され、同年秋に国鉄から停職六か月の処分を受けた職員は、被告に採用されている。このことに照らせば、国鉄が原告らを右名簿に記載しなかったことは、国鉄そして前記の関係からすると設立委員ないし被告の不当労働行為性を如実に示したものである。

(3) 採用基準の適用違反

被告の設立委員の採用基準(以下、単に「採用基準」という。)は、別紙1記載のとおりである。

原告らは、次に述べるように、採用基準に適合している。すなわち、原告らの生年月日は別紙2ないし12記載のとおりで、いずれも昭和六一年度末において満五五歳未満であり、また、健康状態は良好であった。さらに、全員が「退職前提の休職」の発令、「退職を希望する職員である旨の認定」及び「再就職の斡旋」を受けてはいないから、原告らは、採用基準3の「日本国有鉄道在職中」の勤務の状況から見て、当社の業務にふさわしい者であること。」という基準に適合しないことを理由に不採用とされたものと理解する以外にない。しかし、採用基準3の内容が一般的に見た場合に従業員の採用の基準として適切なものか否かはともかくとして、被告の設立委員が原告らに対して具体的に採用基準3を適用するに当たって、それが「(当社の業務に)ふさわしい(者)」という恣意的解釈を許す文言によるものであることを奇貨として、原告らの組合所属や労働処分を基準とし、これに基づいて原告らを「不採用」=解雇としたのが本件の実体であるから、いずれにせよ原告らの「不採用」が違法であることは論をまたない。採用基準3を客観的かつ公平・公正に解釈し、これを知識・経験に基づく鉄道業務の遂行能力と理解するときは、原告らが採用基準3にも十二分に適合していることは、次に述べるとおりである。

ア 原告高石正博

原告高石正博(以下「原告高石」という。)の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙2記載のとおりである。

原告高石は、同四七年、乗務運転士として列車事故に遭遇していったん休職になったが、同五二年七月に復職し、津田沼電車区運転技術係となり、以降、乗務運転士の行路カードの検討・作成、列車ダイヤ改正時の乗務運転士の行路カードの変更・作成、同電車区の庁舎や諸設備の設計・変更・保守等の業務に精勤してきた。同六一年、不当にも同電車区人材活用センターにその意に反して配転させられた時は、従来、原告高石が担当していた業務の停滞が発生し、担当職員から原告高石に対し自宅にまで問い合わせが頻繁にあった。

原告高石は、国鉄職員としてその本来の業務について能力を十分に有しており、この点を評価されて、同五九年四月一日に抜てき昇給の賞を得ている。

イ 原告林熊吉

原告林熊吉の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙3記載のとおりである。

原告林熊吉は、幕張電車区において、交番検査(三〇日周期の定期検査を担当する。)、臨時検査(故障車両の原因究明及び修理を担当する。)、引取検査(国鉄の下請けの車両整備会社が実施した研修作業の結果を点検する。)等の主要な職務を担当し、国鉄入社以来三〇年余りの長期にわたり検修職に精勤してきたのであり、右在職中その検査修理業務で何らのミスないし事故を起こしたことはなく、その技術、知識及び経験は同僚と上司によって等しく評価されている。

ウ 原告中村仁

原告中村仁の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙4記載のとおりである。

原告中村仁は、同五七年二月に千葉運転区所属電車運転士となったが、職務中であると職務外であるとを問わず、旅客の安全輸送という鉄道業務の最大の使命を常に自覚し、行動してきたものである。そのことは、原告中村仁が、電車運転士として何らの事故なくその職務を遂行してきた外、同四七年三月三〇日に外房線八積・茂原間の踏切で発生した列車衝突事故に際して(原告中村仁は、通勤者として同乗していた。)、乗客の救出・救助活動に奮闘したことが高く評価され、同五九年五月一七日に千葉鉄道管理局運転部長から褒賞を授与されていることによっても明らかである。

エ 原告角田清明

原告角田清明(以下「原告角田」という。)の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙5記載のとおりである。

原告角田は、同四六年六月一五日に津田沼電車区所属電車運転士として何らの事故なく運転業務に従事して、「一〇万キロ無事故記録証の賞(以下「無事故記録証」という。)」を四回、千葉鉄道管理局長から授与され、右良好な勤務歴から、経験の浅い電車運転士(見習い)の指導・監督を担当する「教導運転士」の資格を有している。

オ 原告林利明

原告林利明の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙6記載のとおりである。

原告林利明は、同四八年一月三一日に津田沼電車区所属運転士になり、無事故記録証を三回授与された外、同五一年七月二五日には、運転事故防止の努力が認められて、千葉鉄道管理局総武運輸長褒賞を授与され、さらに、踏切事故防止や信号機不良の発見等の功績で数回千葉運転区長賞を受賞している。原告林利明は、右のとおり、一〇年以上の電車運転士としての職務を何らの事故もなくかつ安全輸送に配慮しながら遂行してきたものであり、右職務の適格性を十分に有するものである。

カ 原告相原昭二

原告相原昭二(以下「原告相原」という。)の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙7記載のとおりである。

原告相原は、同四八年一二月一一日に成田運転区所属運転士になり、無事故記録証を連続四回更新受賞し、以後も、停職処分の事前通知を理由に乗務を停止された同六一年一月二九日まで一貫して無事故で職務を遂行してきたし、この間、成田線酒々井・成田間の並木信号付近のレール曲折の発見、踏切遮断棒折損発見等の功績で千葉鉄道管理局長褒賞、成田運転区長褒賞等の賞を数度にわたり授与されている。原告相原は、右のような良好な勤務歴から、前記の教導運転士の資格を有する。

キ 原告江口治男

原告江口治男(以下「原告江口」という。)の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙8記載のとおりである。

原告江口は、同四五年六月一五日に電車運転士となって、津田沼電車区及び千葉運転区に勤務し、何らの事故なく運転業務に従事してきたのであって、無事故記録証を四回授与され、四回目の授与以降も一貫して無事故で運転してきた。

ク 原告中村俊六郎

原告中村俊六郎の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙9記載のとおりである。

原告中村俊六郎は、同四七年七月四日に津田沼電車区所属の電車運転士となり、同五五年三月一日に勝浦機関区に転勤となったが、電車運転士として無事故でその業務に従事していただけでなく、自ら重大事故に遇いながら、乗客の安全を第一に、迅速・的確に行動する等、動力車乗務員としての責任を十分に自覚して職務を果たしてきた。すなわち、原告中村俊六郎は、無事故記録証を四回授与されているばかりでなく、同五六年一一月二日には、上総一ノ宮駅構内で発生した乗務列車とトラックとの衝突脱線事故(踏切事故で、電車二両の脱線とトラック運転手・同乗者の死亡という重大事故)に際しての事故処理についての功績が認められ、千葉鉄道管理局運転部長表彰を受けている。

ケ 原告塩崎昭広

原告塩崎昭広(以下「原告塩崎」という。)の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙10記載のとおりである。

原告塩崎は、同四八年二月五日に千葉運転区所属電車運転士となり、その後館山運転区に転勤となったが、無事故記録証を四回授与されているばかりでなく、日時は不祥だが、一つは那古形駅構内踏切に女児がいるのを発見し、急停車し人命救助をしたとして、もう一つは架線切断の重大事故につながるハンガーはずれを発見して急停車し、重大事故を未然に防止したとして、千葉鉄道管理職長褒賞を二回受けている。原告塩崎は、右のとおり無事故で電車運転士としての職務を果たしてきたばかりでなく、いつでも乗客の安全輸送の責任を自覚して乗務してきた結果として、人命救助や重大事故防止という功績を残してきたのである。

コ 原告多田正雄

原告多田正雄(以下「原告多田」という。)の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙11記載のとおりである。

原告多田は、同四八年五月二四日に津田沼運転区所属の電車運転士となり、その後銚子運転区に配属されたが、無事故で動力車乗務員としての職務を果たしてきたばかりでなく、人命救助等の功績を残している。すなわち、原告多田は、無事故記録証を四回授与されているばかりでなく、同五一年に、人命救助で千葉鉄道管理職長褒賞を受けた外、幾つかの褒賞を受けている。

サ 原告伊藤隆

原告伊藤隆(以下「原告伊藤」という。)の国鉄入社以降の主な職歴等は、別紙12記載のとおりである。

原告伊藤は、同四八年二月五日に千葉運転区所属の電車運転士となりその後銚子運転区に配属となったが、一五年にわたって無事故で動力車乗務員の職責を果たしてきたものであって、無事故記録証を四回授与されている。

(4) 原告らの「不採用」の整理解雇性とその要件の不備

仮に原告らが被告に採用されないとするならば、原告らの「不採用」は解雇に外ならない。

ア 労働契約は、労働力の提供とそれに対する報酬の支払の法律関係である。労働力の提供を予定しない労働契約は、存在しない。しかし、事業団における原告らの日常は、何も仕事を与えられず、一日中自学自習で時間を過ごす毎日であり、全く労働力の提供はなく、単に決められた時間の経過を待つといったものである。これは、単純な身体の拘束以外の何ものでもない。このように原告らの配属された事業団に労働契約の観念は存在しない。

したがって、原告らを右の状況においた、被告らの原告に対する「不採用」行為は、正に使用者によってなされた、労働契約の効力を一方的に消滅させる行為であり、解雇に外ならない。

イ 仮にそこに労働力提供の観念が入り得たとするならば、原告らが事業団に配置され得るのは三年間だけであるから(日本国有鉄道退職希望者職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(以下「再就職促進特別措置法」という。)一四条三項、附則二条参照)、事業団への配置は、期限付解雇であることに変わりがない。

ウ 改革法一条は、「国鉄の改革」の名のもとに行われる様々な施策が国鉄の経営改革のためのものとしてなされることを明らかにしている。そして、同法二三条に定める承継法人の職員の「採用」手続も、被告らの経営改革を目指すものとして行われた一連の施策の一環であり、原告らに対する「不採用」も、企業経営上の必要を理由としてなされたものであるから、いわゆる整理解雇である。

エ 憲法二七条一項は、単に消極的に労働の自由を意味するものではなく、国が労働権の実現、すなわち国民が就労することの障害となるような行為をすれば無効となり、同様な個人間の契約もまた無効とされることになるという意味で労働権の保障によって公序を設定したものであると解すべきである。そして、この労働権保障の観点からすれば、整理解雇は、企業経営上の必要という専ら使用者側の理由をもって行われるものであるから、通常の解雇よりさらに厳格な基準をもって絞りを掛けなければならない。こうして、多くの裁判例は、整理解雇の要件として、①整理解雇を行わなければ、企業の維持・存続が危機にひんする程度に差し迫った必要性があること、②整理解雇に至る過程でこれを回避し得る相当の手段を講じたこと、③整理解雇の必要性・時期・規模・方法等について労働者側と真しな協議を行い、その納得が得られるよう努力をしたこと、④被解雇者の人選が誠実かつ合理的に行われたことの四要件を挙げ、これらの要件を具備しない整理解雇は解雇権の濫用として無効になると解している。

ところが、国鉄は経常収支は黒字基調となっており、保有する土地、施設、鉄道・通信技術等の資産を有している上、当初予定された「採用予定人員」にも満たない状況で原告らをあえて「不採用」としたのであるから、①の要件を満たしてはいない。また、そもそも必要がないのに整理解雇を目的化して押し進めてきたのであるから②の要件も備わっていない。さらに、労働者側との協議は一切なく、労働組合の求める団体交渉はことごとく無視し、団体交渉権を踏みつけにして実現されたものであるから、③の要件も欠ける。そして、原告らはいずれもその勤務成績ではなく、動労千葉の組合員であることを理由として整理解雇の対象とされたのであって、人選は合理的どころか団結権を侵害する不当労働行為を構成するものであるから、④の要件も充足していない。

したがって、被告の設立委員ないし被告による原告らの「不採用」すなわち整理解雇は前記四要件を一つたりとも満たさず、すべての面で許容されないものであり、整理解雇の法理を著しく逸脱するものであって無効である。

4  確認の利益

被告は、原告らとの間の雇用関係の存在を争っている。

5  不法行為上の被告らの故意等及び原告らの損害

(一) 被告らの故意等

(1) 新会社は、昭和六一年一二月ないし同六二年三月当時、その実体として国鉄の人的・物的設備を承継するための組織態勢を一切有しておらず、この「実体的な国鉄」と「観念的な新会社」を接合したのは、設立委員である。設立委員は、共通設立委員と各新会社別の設立委員の二種類があり、前者が国鉄から各新会社への承継手続を統括した。その共通設立委員の一人に国鉄総裁の杉浦が就任した。すなわち、国鉄と新会社は、右の当時、杉浦の共通設立委員への就任を介して共同の意思疎通と意思形成を行っていたものである。国鉄ないし被告の設立委員による原告らの名簿不登載の理由が原告らが動労千葉に所属し、動労千葉の組合員として積極的な組合活動を行ってきたことにあることや、国鉄が分割・民営化されるまで大規模かつ多様な不当労働行為を行ってきたことは前記のとおりであるが、こういう事実の認識を有していた国鉄の代表者である杉浦が共通設立委員に就任し、原告らの「不採用」手続に関与したことは、その主観的側面において国鉄の原告ら(原告らが所属する動労千葉)に対する認識を被告に持ち込んだことを示すものである。こうして、本件の不法行為の成否において、国鉄は原告らをその組合所属及び組合活動を理由として被告の採用予定候補者名簿に登載せず、かつ、被告は右理由及びこれに基づく右名簿不登載を知っていたものであるから、共同不法行為の主観的要件を充足するのである。

(2) 前記2又は3の理由による被告ないしその設立委員による、原告らの継承の拒否又は不採用は、原告らが有していた被告の従業員となるべき地位を違法に侵害するものであるが、さらに、被告は、最終答申及び基本計画における要員数を知っており、遅くとも同六二年二月上旬ごろまでには、被告への採用希望者数が定員を下回っていることを知っており、そして、本項(1)の事実(不法行為の主観的関連共同)から、右の「定員割れ」の事態にもかかわらず、原告らが採用予定候補者名簿から除外されていることを知っていた。ここにおいて被告は、右最終答申及び基本計画で設定された要員数に基づき、原告らの採用を改めて考慮すべきであり、かつ、同六二年四月一日までその時間的余裕があったにもかかわらず、これを故意に徒過し、原告らに「不採用」の不利益を強いた。被告のこの対応は、現状の雇用の安定と確保を主要命題の一つとする国鉄分割・民営化の方針に背反する違法な原告らの被告の従業員になるべき地位の侵害である。

(二) 原告らの損害

原告らは、被告が原告らと国鉄との労働関係を継承せず又は採用を拒否したことにより、これまで従事してきた鉄道業務とは全く異なる状態に置かれ、かつ、平成二年三月三一日限りの期限付解雇を通知されたことにより甚だしい精神的苦痛を被り、また、事業団においては定期昇給、昇職による賃金上昇がなく、一時金も被告の従業員よりも低額であるなど著しい財産的損害も被った。原告らの損害のうち、精神的損害による慰謝料額は、それぞれ一〇〇万円を上回る。

よって、原告らは、それぞれ、主位的に被告との間で雇用関係が存在することの確認を求め、予備的に共同不法行為に基づく損害賠償として被告に対し慰謝料のうち一〇〇万円及びこれに対する本件不法行為の後である平成元年一月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1(一)  請求の原因1(一)の事実は認める。

(二)(1)  同1(二)(1)のうち、国鉄が昭和六二年四月一日に改革法及び事業団法に基づいて事業団に移行したことは認めるが、事業団と国鉄との間に企業の同一性がないとの主張は争う。

(2) 同1(二)(2)のうち、被告が改革法及び新会社法に基づく設立手続により設立された新会社の一つであることは認める。

2(一)(1) 同2(一)(1)のうち、国会において一連の国鉄関連法案が成立したことは認めるが、国鉄再建管理委員会の最終答申の基本が国鉄の解体―消滅にあるのではなく、国鉄自体の承継を大前提としたものであるとの主張は争う。

(2) 同2(一)(2)のうち、被告の設立時における従業員の採用が国鉄職員を対象とするものであったことは認めるが、主張はすべて争う。

原告らの主張は、国会が国鉄改革の趣旨を達成するために国鉄と被告ら新会社との各法人格の別異性を一義的に明確に規定した国鉄改革関連法令なかんずく改革法二三条の存在を否定するものであって到底認容できるものではない。これを敷えんして述べると、次のとおりである。

被告ら新会社が国鉄とは別個独立の法人格を有する株式会社として、改革法等関連法令に基づき設立された法人であることは否定すべくもなく、他方、国鉄の法人格は昭和六二年四月一日以降事業団に承継されたのであるから(事業団法附則第二条)、こういう事情を無視して、被告ら新会社と国鉄との間に「実質的同一性」が存在するなどといい、これを根拠として雇用関係の存在を主張する原告らの主張は誤りである。

本件において問題とされる国鉄とその職員との間における雇用関係がその分割・民営化に伴ってどのように措置されるかという点については、改革法及び関連法令によって、およそ解釈上の疑義の生じる余地なく処理されているのである。すなわち、改革法は、同法六条以下に規定されているように、同年四月一日以降、国鉄の事業又は業務を六旅客鉄道会社、一鉄道貨物会社等の一一の法人(以下「新事業体」ということがある。)に引き継がせることとし、それに関連して同法は、国鉄の現有する資産、債務等の処理について規定するとともに、その職員の雇用関係については、これらの新事業体に従来の雇用関係が当然に承継されるものとすることなく、新事業体において新たに採用手続を行い、新規採用者を決定するとともに、他方、これらの新事業体を希望しない者、不採用となった者等についても、解雇その他不利益な措置が採られるわけではなく、同日以降も、国鉄の法人格を承継する事業団に特段の採用又は任命手続をまつまでもなく当然にその職員として雇用関係が継続することになっているのである。

このように、国鉄改革に当たっては、被告ら新事業体が国鉄の職員をそのまま継承する方式を採らず、新事業体が新規に従業員を採用するとされているのであるが、これは、新たに設立される事業体が右のように一一の法人となること(同法六ないし八条、一一条。このように複数の新事業体が設立されることから見ても、「実質的同一性」を有する事業体との間に雇用関係が存続するなどという原告らの主張は現実的論拠を欠くのである。)、国鉄改革の契機が国鉄経営の破たんにあり、国鉄はその業務量に比して著しく過剰な要員を抱えていたこと、及び旧来の国鉄の経営形態に伴う悪弊を抜本的に変革し、新事業体による新たな効率的経営体制の確立が国鉄改革の目的とされ(同法一条)、新事業体は、この目的に即した条件を考慮して発足すべきことが要請されていたこと、すなわち、新たな経営理念によって運営されるべき新事業体の構成員は、国鉄改革に基づく新事業体の理念を効率的に実現するため、合理化された要員規模(換言すれば、不採用者の発生は、当然予想された。)となるべきことが予定されていたことによるのである。

(3) 同2(一)(3)のうち、被告ら新会社に採用された旧国鉄職員の退職金の取扱いについて国鉄時代の在職期間が通算されることとされていることは認めるが、主張は争う。

被告ら新会社の従業員の採用については、改革法等関連特別法令により、一般論との関連における解釈上の疑義が生じないように立法上措置されているのであるから、「営業譲渡」に関する一般論によって、その手続、効果等があいまいにされる余地はない。新会社による従業員の採用は、従来の職員の身分とは別個に、後記のような法令の手続を経た場合に限り認められるものであって、「新規採用」であることは、改革法における前記のような特段の規定に照らし、否定し得ないところである。そして、このような法主体に係る理解は、国鉄による運送事業が同年三月三一日以降も間断なく新事業体によって引き続き運営されている現象形態とは別個に、法律上考察されるべき事柄である。国鉄と新事業体との間においては、その事業が外観上継続的に運営されているとはいえ、別異の法主体間における権利及び義務の引継ぎについては、運輸大臣が国鉄の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する「基本計画」を定め、国鉄は運輸大臣の指示により、承継に関する「実施計画」を作成して認可を受けることとされ(同法一九条一項、三項、五項及び二一条)、被告ら新事業体は、それぞれその成立時において、これらの計画において定められたところに従って承継し(同法二二条)、新事業体に承継されることとされていないものは、国鉄の法人格を承継した事業団に帰属することとなっているのである(同法一五条、事業団法附則二条)。そして、国鉄とその職員との間に存在していた雇用関係の処理については、右の改革法一九条四項に明記される実施計画による権利義務の移転とは別個に、特に原告ら新事業体が同法二三条所定の手続に従い従業員として採用した者についてのみ新たな雇用関係が設定されることが明定されているのであって、このような法的措置は、正に被告ら新事業体が従来の国鉄における雇用関係を当然に承継するものでないことを明示しているのである。

なお、原告らは、同法が承継法人の職員について退職金の不支給、在職期間の通算を規定していることを国鉄から新事業体に対して営業譲渡がなされた証左であるというが、このような取扱いは国家公務員等退職手当法等においても見受けられるところであり、これがその雇用関係承継の論拠とならないことはいうまでもない。かえって、継続性が存在しないからこそこのような特別の立法措置が講ぜられているのである。そして、このような雇用関係継続性の不存在は、国鉄当時に行われた懲戒処分の効力及び国鉄当時の所為に係る懲戒処分が事業団についてのみ存続することとされている(改革法施行法二九条一項)ことにも現れているのである。

(二)(1)  同2(二)(1)は争う。

被告ら新会社は、国会の議を経た改革法等関連法令に基づいて設立されたものであって、原告らの主張するような「国鉄の、原告ら職員に対する労働契約上の義務を免れる」目的などが介在する余地はなく、要するに、各新会社はそれぞれ法令の定めに従って設立されているのであるから、このような法人の存在を「法人格の濫用」であるなどということができないことは明らかである。

(2) 同2(二)(2)の主張は争う。

3(一)(1) 請求の原因3(一)(1)のうち、被告の設立委員が国鉄に対して別紙1の採用基準を提示したことは認める。被告の設立委員の国鉄に対する右基準の提示は、改革法二三条一項に基づくものである。ちなみに、同条の定める採用に関する手続を示すと、次のとおりである。まず、新事業体の設立委員は、それぞれの「労働条件及び採用の基準を提示して、職員の募集を行う」ものとされ(一項)、国鉄は、この提示に応じてその「職員の意思を確認し」、新事業体ごとにその職員となる意思を表示した者の中から、右採用の基準に従い、「その職員となるべき者を選定し」、その名簿を作成して設立委員に提出し(二項)、「名簿に記載された国鉄の職員のうち」設立委員から採用する旨の通知を受けた者で新事業体発足時に国鉄に在職する者であってはじめて、その「職員として採用される」こととなっている(三項)。そして、原告らに係る被告ら新会社を含む新事業体における職員の募集及び採用に関する手続がこのように同法によって明定されていることからすれば、原告らと被告ら新会社との間の雇用関係は、従来の国鉄の職員のそれとは別個に、原告らと被告ら新会社との間において、右に示したように国鉄から提出された名簿に基づき所定の手続がなされた場合に限り認められ、それに伴い新たな雇用契約が成立することとなるのである。

(2) 同3(一)(2)の主張は争う。同条二項にいう「意思の確認」は、新事業体との関係においては「応募」に当たるものである。

(3) 同3(一)(3)の事実は、年月日を除き認める。

(4) 同3(一)(4)のうち、原告主張の条項があることは認める。しかし、設立委員と被告ら新会社は、同一の存在ではない。

(二)(1)  同3(二)(1)の主張は争う。

同法一九条の基本計画においては、被告ら新会社の職員予定数が定められたに過ぎず、この予定数が被告ら新会社において採用を義務付けられる人数を意味するものでないことはもとより、右予定数が充足されていないからといって、国鉄が被告ら新会社の従業員に適しないと判断して、同法二三条二項に基づきその責任において作成した名簿に登載しなかった者までも同条により新規採用の対象となるなどというのは、明らかに同法の趣旨を無視する不当な主張である。

(2) 同3(二)(2)及び(3)の主張は争う。

原告らは、国会における政府答弁等を引用して国鉄職員の雇用保障が必要であった状況を強調し、新事業体への就職を希望する者の数が同法一九条所定の基本計画において策定された数に満たない場合には、同法二三条による「採用手続の余地はない」などというが、基本計画上の予定数がそのような法的拘束力を有するものではない。

(3) 同3(二)(4)の主張は争う。

同条に基づく各新会社による採用は、従来の国鉄の職員の身分とは別個に、前記のような法令の手続を経た場合に限り認められるものであって、原告らが主張する「振分け」などとその性格を異にする「新規採用」であることは、同法における前記のような特段の規定に照らし、否定し得ない。

(4) 同3(二)(5)のうち、同法一九条に基づく基本計画において被告の採用予定数が原告ら主張のとおりであることは認めるが、主張は争う。被告ら新会社の従業員の新規採用について同条所定の手続が排除されるとの主張に至っては、論外の論であるといわざるを得ない。

(三)(1)  同3(三)(1)の主張は争う。

被告ら新事業体における従業員の新規採用については、国は、これを新事業体と就職希望者との間における私的自治に任せることなく、同条により明文を設けて、採用決定に至るまでの手続の段階的区分、各段階の責任者及びその権限、特に採用対象者については従来の勤務状況を現実に把握する立場にあった国鉄の作成に係る名簿登載者たること等採用に係る基本的事項につき、およそ解釈上疑義が生じないように措置している。したがって、国会における同法案の審議の過程において、国鉄は「設立委員の補助者ないし代行者」であるなどという事実上の説明が加えられたことがあるとしても、このような説明は、法案審議の過程における便宜に過ぎないものである。なぜならば、法律上「代行」又は「準委任」等といい得るためには、設立委員が本人としての立場においてその権限を有することが前提と解さざるを得ないところ、同法二三条二項所定の名簿作成権限は国鉄のみが専権的に有するものであって、設立委員がその権限を有しないことは規定上明らかであるし、そもそもこのように法的性格、効果を異にする「代行」「準委任」「履行補助者」等の用語が並列的に用いられていること自体、これが国会における説明の便宜に過ぎないことを示しているといわざるを得ないからである。したがって、このような説明が成立した同法の客観的合理的解釈を左右し得るものでないことは、法解釈の一般原則上当然である。

(2) 同3(三)(2)のうち、国鉄が設立委員から提示された採用基準を具体的に運用するに当たって同五八年四月一日から同六二年三月三一日までの四年間に停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けたことを基準(以下「運用基準」という。)としたことは認めるが、その余は趣旨において争う(なお、原告らが指摘する逮捕の例は、非違行為が同五七年八月ごろのものであるから、対象期間外のことに属し、したがって、例外措置の対象として名簿に登載されたものではない。これを組合所属のいかんと結び付けて差別的なものであるという原告らの主張は、一方的独断に基づく誤りである。)。

国鉄を改革して新事業体として発足した被告の従業員の採用の手続ないしその担当権限者については、前記のとおり、新事業体を設立するために措置された特別立法の中核をなす同法二三条に明確に規定されているところであり、強行法規たる同条二項によれば、被告の従業員たる身分を取得するためには、その前提として国鉄が独自の責任と判断の下に作成した名簿に記載されること(国鉄の名簿記載の実質的意味は、国鉄の推せんといえよう。)が必須の要件とされているのであって、新事業体の設立委員は、この前提要件を充足していない者に対しては、採用通知を発する権限を有しないのである。したがって、そのような者については、他の事実関係、特に国鉄が名簿に登載しなかった事情に論及するまでもなく、被告の従業員たる地位をうんぬんする余地はないのであるから、その者が国鉄の法人格を承継した事業団に対して名簿不登載に係る不当労働行為その他による賠償等を求め得るか否かはとにかくとして、被告に対して従業員たる地位の確認はもとより、損害賠償を求め得ないことは明らかである。

(3) 同3(三)(3)のうち、被告の設立委員の提示した採用基準が別紙1のとおりであること、原告らが国鉄の作成した採用予定候補者名簿に記載されず、被告に採用とならなかったことは認めるが、その余は争う。

右名簿作成に係る国鉄の権限は、同条項にその基礎を置くもので、新事業体への就職希望者が設立委員の提示した採用基準に適合するか否かすなわち名簿に登載するか否かの判断は、国鉄に付与された人事裁量権の範囲に属し、国鉄は、改革法の定めに従い、国鉄在職中の勤務の状況からみて、「当社の業務にふさわしい者であること」等提示された採用基準に適合する者を選定して名簿を作成したのであって、国鉄がその職員について採用基準3の適用を検討するに際しては、その「既存の資料」に基づくこととされているのであるから、一定の懲戒処分の存在を一応の基準とし、さらに処分後の事情つまり勤務態度、勤務意欲等を総合的に勘案して決定することができるのである。

原告らは、国鉄による懲戒処分について、それが「労働処分」として特段の意味を有し、「採用基準とは異なる基準」であるかのように言うが、各懲戒処分に係る行為が定立された国法及び就業規則違反の行為であることは否定すべくもなく、このような秩序違反行為をあえてする者について、国鉄が被告採用基準3にいう「当社の業務にふさわしい者」とはいえないとして、特にその程度の高い一部の者を名簿に記載しなかったことは、何ら非難されるべきことではない。そして、原告らについては、右採用基準との関係において別表記載の処分歴が認められるのであるから、原告らが右採用基準に照らして被告に「ふさわしい者」といえないことは、法的評価のみならず常識的評価においても容易に納得できるところである。

(4) 同3(三)(4)の主張は、原告らの主張は、国鉄と事業団の法人格の承継を否定し、原告らが新会社たる被告に採用されなかったことをもって「被告による解雇の実施」と強弁するものであり、それが改革法関連法令における明文の規定と相反する独自の見解であることは、被告が従前の主張において明らかにしたところである。要するに、事業団が国鉄の法人格を承継する特殊公法人であることは、改革法一五条の規定によって明白であり、国鉄とその職員との間の雇用関係は、新事業体たる被告らに採用される等特段の事情がない限り、事業団法附則二条により事業団によって承継されることとなることは繰り返すまでないことであって、被告が原告らを解雇し得るような立場になかったことは法律上明白であるから、被告が原告を採用しなかったことをもって「解雇」とする原告らの主張は、改革法の規定を無視したびゅう論である。特に原告らは、再就職促進特別措置法附則二条をその論拠として指摘するが、それが原告らに対する被告の使用者性を認めるものと解される余地はない。また、国鉄が同六二年四月一日に廃止され事業団が成立すると同時に、国鉄との間に存した原告らの雇用関係は事業団との間に承継され(事業団法附則二条)、原告らが以後事業団職員たる身分を保有するに至ったことは前記のとおりであるから、「国鉄による解雇」などが認め得ないことは、その実体に照らしてみても明らかなことである。

4  請求の原因4の事実は認める。

5(一)(1) 請求の原因5(一)(1)は争う。被告の設立委員及び被告の国鉄との間に共謀又は指示などという関係はない。

(2) 同5(一)(2)のうち、被告が原告らと国鉄の雇用関係の承継を否定し、また、被告が原告らを採用しなかったことは認めるが、その余は争う。

(二) 同5(二)のうち、被告が原告らと国鉄の雇用関係の承継を否定し、また、被告が原告らを採用しなかったこと、原告らが従来従事していた鉄道業務に従事していないことは認めるが、定期昇給、昇職による賃金上昇のないこと及び一時金も被告の従業員よりも低額であることは不知、その余は争う。

第三  証拠<消略>

理由

一当事者について

請求の原因1の事実、国鉄が昭和六二年四月一日に改革法及び事業団法に基づいて事業団に移行したこと並びに被告が改革法及び新会社法に基づく設立手続により設立された新会社の一つであることについては当事者間に争いがなく、国鉄が鉄道事業を営む日本国有鉄道法の法人であったこと及び被告が国鉄から東北及び関東地方の旅客輸送事業を引き継いだことについては、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

二原告ら・国鉄間の労働契約関係の被告への継承について

1  被告の原告ら・国鉄間の労働契約の当然の承継について

(一)  国鉄と被告との実質的同一性について

原告らは、国鉄と各新会社は実質的かつ本質的部分において連続性・同一性を有しており、企業としての実体には何らの変更がなく、国鉄再生に必要な限度での経営形態の変更があったに過ぎない旨主張する。そして、原告らは、国鉄と被告が別個・独立の法主体であることを前提として、両者が実質的同一性を有する証左として幾つかの事実を挙示するが、右の事実はいずれも経済的ないし社会的事実かせいぜい法律的な現象に過ぎないものであるところ、原告らと独立の法主体である国鉄との間の労働契約関係が国鉄とは別個の・独立の法主体である被告に当然に承継されたかどうかは優れて法律上の問題であるから、両者が実質的同一性を有するといい得るためには法律上又はその解釈上の論拠(有効な論拠になり得るか否か別として、例えば商法上の組織変更(同法一一三条、一六三条、一六二条二項、有限会社法六四条、六七条、六八条)の類推適用など)を掲示しなければならず、単なる経済的ないし社会的事実あるいは法律的現象を列挙してそれらの実質的同一性を指摘するだけでは足りないというべく、したがって、原告らの右主張はそれ自体失当のきらいがある。しかし、原告らの右主張の主旨が、両者が実質的同一性を有する法律上又はその解釈上の論拠があるといおうとするものであることは明らかであるから、それについて法律上又はその解釈上の論拠があるか否かを検討しておく必要があろう。

国鉄改革関連法令とりわけその中核となる改革法の条文を見ると、随所に「事業(ないし業務)の引継ぎ(引き継がせるなど)」(同法六条、八条二項、九ないし一一条、一九条一ないし四項、二一条など)、「(資産、)債務(並びにその他の権利及び義務又は財産)の承継(承継させる)など」(同法一三条、一九条一ないし四項、二〇条一、二項、二二条など)の文言があり、さらには「承継法人」(同法一一条二項、一三条一項、一五条、一九条一ないし四項、二〇条一項、二一条、二二条、二三条一ないし三、五ないし七項など)という表現がある。そして、被告も右の承継法人の一つである(同法六条二項二号、一一条二項)から、一応被告は、法令上国鉄からその行っている事業又は業務(以下「事業等」という。)のうち主として東北及び関東地方に分割された旅客鉄道事業を中心とする事業等をそのまま継承しているということができる。しかしながら、同法をしさいに検討すると、同法は、引継ぎあるいは承継の用語を資産、債務並びにその他の権利及び義務又は財産その他のいうなれば物的な関係で使用しており、労働契約関係を含むいうなれば人的関係では使用しておらず、また承継法人の用語も便宜的な略称として使用しているに過ぎないのであって、物的及び人的関係を含む包括的な事業ないし業務をそのまま承継させるときは、「移行」という用語を使用している(同法一五条、一八条など)のである。すなわち、同法は、国鉄による鉄道事業その他の事業の経営が破たんし、効率的な経営体制を確立するための国鉄の経営形態の抜本的な改革つまり国鉄改革に関する基本的な事項を定めた(一条)が、輸送需要の動向に的確に対応し得る新たな経営体制を実現するために(同法一条参照)、国鉄の事業等を六旅客鉄道会社、一鉄道貨物会社等の複数の新事業体に分割することにした上(同法六ないし八条、一一条)、国鉄の事業等の承継法人への適正かつ円滑な引継ぎを図るため、運輸大臣に対し、閣議の決定を経て、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画を定めることを命じている(同法一九条一項)。そして、その基本計画の中には①「承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲に関する基本的な事項」並びに②「承継法人に承継させる資産、債務並びにその他の権利及び義務に関する基本的な事項」とともに、③国鉄「の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数」を含ませている(同条二項)が、運輸大臣が基本計画を定めたときに国鉄に対して作成すべきことを指示しなければならない引継ぎ及び承継に関する実施計画中には③の事項を含ませず(同条三、四項、同法二一条、二二条参照)、それと切り離して定め、一定の要件の下に新規の「採用」の方式によることにしている(同法二三条)のである。その上、国に国鉄が承継法人に事業等を引き継いだ時点で国鉄そのものを事業団に移行させるものとすることを明示した(同法一五条)。要するに、同法は、国鉄の職員を、一定の要件を充足した者について新事業体に採用させ、その他の者は事業団に残留させる二つの方式により処遇しようとしたと解すべきであって(同法二三条六、七項がこのように解することの妨げにならないことは、後に判示するとおりである。)、こと人的関係では承継の法理を採らなかったことは明らかであるというべきである。

そうすると、原告の右の当然の承継の主張は、理由がないといわなければならない。

(二)  営業譲渡に基づく労働関係の移転について

原告らは、国鉄の分割・民営化の本質は、企業主体の変更ないしは営業譲渡に外ならないから、労働関係は、新会社に承継されるものであると主張する。

しかしながら、たとえ国鉄から新事業体への国鉄の事業等の移転等の実態に営業譲渡などの要素があるとしても、国鉄から新事業体への国鉄の事業等の種類及び範囲とそれを構成する資産、債務並びにその他の権利及び義務の移転の内容ないし態様、方法ないし手続及び効果や職員の処遇の内容ないし態様、方法ないし手続及び効果については改革法をはじめとする国鉄改革関連法令が詳細に規定するところであって、それが法定されている以上、それに対して企業主体の変更ないし営業譲渡などの一般的な法理論が適用される余地はないといわなければならない。なお、原告らは、改革法が承継法人の職員について退職金の不支給、在職期間の通算を規定していることをもってそのようなことは営業譲渡以外に考えられない旨主張し、被告ら新会社に採用された旧国鉄職員の退職金の取扱いについて国鉄時代の在職期間が通算されることとされていることについては、当事者間に争いがない。しかしながら、原告らの右主張は、国鉄から新事業体への国鉄の事業等の移転等が営業譲渡の要素を持つことを指摘する以上の意味はなく、改革法が承継法人の職員について退職金の不支給、在職期間の通算を規定していることをもって国鉄から新事業体への国鉄の事業等の移転等に対して国鉄改革関連法令の適用が排除され営業譲渡の法理論が適用されるべきことの論拠にはなり得ないというべきである。なぜならば、営業譲渡の法理論は一般的な法解釈論に過ぎず、法規を改廃する効力はないからである。

したがって、原告の営業譲渡等に基づく労働関係の移転の主張は、失当であるといわざるを得ない。

2  法人格の濫用又は改革法二三条の無効について

(一)  法人格の濫用について

原告らは、新会社の設立は、国鉄の・原告ら職員に対する労働契約上の義務を免れるためのものであって、新会社の法人格は否認されるべきであると主張する。

しかしながら、いわゆる法人格否認の法理は、法人格が全くの形がいに過ぎない場合や違法又は不当な目的の下に法律の適用を回避するために濫用されるような場合で、これを権利主体として表現させるのに値するとは認められず、その法的形態の背後に存在する実体に迫る必要のあるときに適用されるものと解されるところ、被告ら新会社は、改革法によって、国鉄による鉄道事業その他の事業の経営が破たんし、公共企業体による全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難となっている事態に対処して、これらの事業に関し、輸送需要の動向に的確に対応し得る新たな経営体制を実現し、その下において我が国の基幹的輸送機関と果たすべき機能を効率的に発揮させることが、国民生活及び国民経済の安定及び向上を図る上で緊要な課題であることにかんがみ、これに即応した効率的な経営体制を確立するために設立され、同法六条二項一ないし六号に定める地方において国鉄が経営している旅客鉄道事業を引き継ぎ、あるいは国鉄が経営している鉄道貨物事業を引き継いだ株式会社である(同法一条、六条、八条)。そして、<書証番号略>によれば、国鉄は、一〇〇年以上の歴史を有するが、昭和三九年度にはじめて単年度で三〇〇億円の赤字を計上し、同四八年度には単年度で四五四四億円の赤字を計上した。長期債務残高が二兆二四〇〇億円に達した同四四年には第一次、同四八年には第二次の再建計画を開始し、さらに、同五五年度までの累積債務五兆三二二一億円の棚上げも行ったが、同六〇年度には単年度で一兆八四七八億円、同年末の長期債務残高は二三兆五六一〇億円に達していた。同六〇年度は一般営業損益は三一八九億円の黒字を計上したが、これは借入金にかかる利子負担、収益を挙げている東北新幹線等の資本費を除外したものであり、国庫助成を除けば二兆四〇〇〇億円、一日当たり六七億円の赤字であった。同五八年六月に国鉄再建管理委員会が発足し、同六〇年七月、同委員会は、政府に対し、「国鉄改革に関する意見―鉄道の未来を拓くために」(以下「最終答申」という。)を提出した。これを受けて国鉄改革関連法案立法作業をした同六一年の第一〇七国会において、国務大臣、政府委員らは、国鉄改革の必要性をもたらした基本的な原因が全国一社制の公社制度という経営形態にあり、鉄道事業の重要性を認識しつつ、その維持、再生のために、これを分割し、効率的な運営を計るため民営化するのが国鉄改革の目的である旨の答弁をしていた。国務大臣、政府委員らは、また、国鉄が独占体制にある日本専売公社、日本電信電話公社等と異なり、航空機、自動車、民営鉄道等との競争を強いられていて地域密着型の運営を確保する必要性が高く、加えてその業務量に比して著しく過剰な要員体制を採っていることが問題であるととらえ、そのため、両公社のように、国鉄の全職員をいったん承継法人に承継させることはそのスタートを危うくする旨答弁していたことを認めることができる。

そうとすれば、被告ら新会社の法人格が違法又は不当な目的の下に法律の適用を回避するために濫用され、社会的実体を欠き、権利主体として表現させるのに値しないものであるとは到底いえないから、原告らの右の法人格の濫用の主張は失当である。

(二)  改革法二三条の無効について

原告らは、同条が新会社の設立委員に対して創設的に職員の採用につき自由裁量権を付与したものであるとするならば、同条は憲法二八条の規定する原告らの団体交渉権、争議権の保障を否定することになり、違憲無効である旨主張する。

原告らの主張の主旨は必ずしも明らかでないが、労働契約関係の継続は労働者にとって労働条件のうちで最も重要なものであるにもかかわらず、国鉄職員は新会社等への採用確保について国鉄に対しても設立委員に対しても団体交渉もできないから、国鉄職員の持つ争議権・団体交渉権をすべて否定することになり、改革法二三条は勤労者の団体交渉権その他の団体行動権を保障する憲法二八条に違反することになるというのであれば、国鉄職員には争議行為が禁止されていた(公共企業体等労働関係法一七条。同条による国鉄職員の争議行為の禁止が合憲であることについては、最高裁昭和二六年(あ)第一六八八号、同三〇年六月二二日大法廷判決・刑集九巻八号一一八九頁参照)から、事由がどのようなものであれ国鉄に対しても設立委員に対しても争議行為を行い得ないことは当然であるし、また、設立委員は使用者又は使用者の団体でないから、新会社等への採用の確保について設立委員に対して団体交渉をする余地がなく、国鉄は使用者であっても新会社等への採用について処分・管理権限を持っていないから、それを団体交渉の交渉事項とすることができないのであって、しかも、新会社等への不採用者にしても後に判示するとおり労働契約関係は事業団に移行して(改革法一五条、事業団法附則二条)消滅するわけではないから、改革法二三条が国鉄職員に新会社等への採用の確保について国鉄に対しても設立委員に対しても争議も団体交渉もできない結果を招来するものであるからといって、同条を憲法二八条に違反するとはいえない道理である。

こうして、原告らの右改革法二三条の無効の主張は、理由がない。

三設立委員の採用手続違背について

1  基本計画による定員採用義務について

原告らは、「採用希望者数」が「日本国有鉄道の職員のうち承継法人となるものの総数及び承継法人ごとの人数」を下回ったときは、改革法二三条三項に定める設立委員等の採用手続の余地はなく、国鉄から被告らに対して当然に雇用関係が引き継がれると解すべきところ、基本計画において被告の要員数は八万九五四〇人と定められていたが、被告の採用予定候補者名簿への登載者数が八万四三四三人に止まり、定員割れの事態が生じたのであるから、同条によって職員選定、名簿作成、採用基準の適用を行うことは許されない旨主張する。そして、被告の設立委員が国鉄に対して別紙1の採用基準を提示したこと、国鉄が新会社の従業員になるべき者を選定し、設立委員に各新会社の従業員になるべき者を記載した名簿を提出したが、右名簿には原告らが記載されていなかったこと、同条五項に職員の採用について設立委員がした行為及び設立委員に対してなされた行為は、それぞれ新会社がした行為及び新会社に対してなされた行為とするとの規定があること、基本計画において被告の採用予定数が八万九五四〇人であったことについては、当事者間に争いがなく、最終答申が「昭和六二年度までに完全に私鉄並みの生産性を実現することについては、現行の国鉄における合理化の進捗状況から見てやや無理があると考えられる。また、余剰人員が膨大であることにかんがみ、旅客鉄道会社にも経営の過重な負担とならない限度において余剰人員の一部を移籍させることが適切である」として新会社の適正要員規模が全体で一八万三〇〇〇人であるが、新会社への移行時点で旅客鉄道会社に鉄道旅客部門の適正要員規模の二割程度(三万二〇〇〇人)を上乗せした要員数を移籍させることとしたこと、国会審議の中では新会社の適正要員は最終答申の段階から三〇〇〇人増えて一八万六〇〇〇人とされたことについては、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

しかしながら、同法が労働契約関係を含む人的な関係については新事業体への引継ぎないし承継の考えを採らず、国鉄の職員を、一定の要件を充足した者について新事業体に採用させ、その他の者は事業団に残留させる二つの方式により処遇しようとしたこと、同法が国鉄の事業等の承継法人への適正かつ円滑な引継ぎを図るため、運輸大臣に対し、閣議の決定を経て、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画を定めることを命じていること、その基本計画の中には①「承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲に関する基本的な事項」並びに②「承継法人に承継させる資産、債務並びにその他の権利及び義務に関する基本的な事項」とともに③国鉄「の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数」を含ませていることは、前に判示したとおりである。問題は、この③の事項について基本計画で定めたものが法的拘束力を有するか否かであるが、同法が承継法人の職員を国鉄職員の中から(被告の設立時における従業員の採用が国鉄職員を対象とするものであったことについては、当事者間に争いがない。)一定の要件を充足した者に限って新規に採用する方式を採用していること、法が国鉄改革を、国鉄による鉄道事業その他の事業に関し、輸送需要の動向に的確に対応し得る新たな経営体制を実現し、その下において我が国の基幹的輸送機関として果たすべき機能を効率的に発揮させることが、国民生活及び国民経済の安定及び向上を図る上で緊要な課題であることにかんがみ、これに即応した効率的な経営体制を確立するため(同法一条)であることを宣言していること、基本計画に定められた国鉄の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数は、もともと適正要員数を上回る余剰人員数を含むものであることを併せ考えると、基本計画に定められた承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数は、あくまで計画であって、新会社の設立委員が右計画で示された数の従業員を採用しなければならない法的拘束力を有するものではないと解さなければならない。

そうすると、被告に応募した者が基本計画に定める被告の従業員となるものの数を下回ったときであっても、同法二三条一ないし三項の規定する要件を充足しないのであれば、応募者を全員採用しなければならない義務が生ずるものではないから、原告らの右の定員採用義務違反の主張は、失当といわなければならならい。

2  原告らの除外の無効性について

(一)  不当労働行為及び採用基準違反について

原告らは、改革法二三条の定める一連の採用手続において原告らを除外することは不当労働行為又は採用基準違反により無効である旨主張し、被告の設立時における従業員の採用が国鉄職員を対象とするものであったこと、被告の設立委員が国鉄に対して別紙1の採用基準を提示したこと、国鉄が新会社の従業員になるべき者を選定し、設立委員に各新会社の従業員になるべき者を記載した名簿を提出したが、右名簿には原告らが記載されていなかったこと、同条五項に職員採用について設立委員がした行為及び設立委員に対してなされた行為は、それぞれ新会社がした行為及び新会社に対してなされた行為とするとの規定があることは、前に判示したとおりであり、国鉄が設立委員から提示された採用基準を運用するに当たって同五八年四月一日から同六二年三月三一日までの四年間に停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けたことを基準としたことについては、当事者間に争いがない。

しかしながら、同法が国鉄の職員を、一定の要件を充足した者について新事業体に採用させ、その他の者は事業団に残留させる二つの方式により処遇しようとしたことも前に判示したとおりであり、同条一ないし四項、附則二項、一項、改革法施行規則(昭和六一年一二月四日号外、運輸省令第四一号)九ないし一二条によれば、承継法人の職員の採用手続は、次のようになっていた。①承継法人の設立委員は、国鉄を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の・就業の場所及び従事すべき業務に関する事項等同規則九条所定の事項を掲げた労働条件及び職員の採用の基準を記載した書面を国鉄の各作業場の見えやすい場所に常時掲示し、若しくは備え付け、又は国鉄の職員に交付することにより提示して職員の募集を行う。②国鉄は、承継法人の設立委員から職員に対して労働条件及び採用の基準が提示されたときは、書面により承継法人の職員となることに関する国鉄の職員の意思を確認する。③国鉄は、職員の意思を確認した後、承継法人別に、その職員となる意思を表明した者の中から当該法人に係る・その設立委員から提示された採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、選定した職員の氏名、生年月日、所属する本社の部局、附属機関又は地方機関の名称を記載した名簿を作成し、当該名簿に記載した職員の選定に際し判断の基礎とした資料を添付して設立委員に提出する。④右の名簿に記載された職員のうち、設立委員から採用する旨の通知に受けた者であって同六二年四月一日の時点で現に国鉄の職員である者は、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用される。なお、右の④の手続は、設立委員が右の名簿に記載された職員のうちから採否の決定をすることを前提にしていると解される。右の手続の流れを一べつすると、承継法人の職員の採用は、例えば民間会社が従業員の採用で指定校制度を採り、指定校から推せんのあった学生の中からのみ採用を決めるのと似た感がないでもなく、会社から指定校に対する推せんの依頼と指定校の応諾による学生の推せん―それは、準委任の関係であろう―という図式を思い浮かばせるきらいがないでもない。しかし、準委任による法律効果は当事者の意思表示によって発生し、契約の拘束力の根拠は当事者の意思ないしその表示された意思にあると考えられるところ、国鉄職員の書面による承継法人の職員への応募と(承継法人に代わる)設立委員による採用の決定―これは、申込みと承諾による労働契約の締結である―の外には設立委員又は国鉄を含めて右の承継法人の職員の採用手続に関与する者が意思表示をし得ることあるいはその法律効果と思われるものを右の法規中に見いだすことはできないから、右の承継法人の職員の採用の手続は、右の労働契約の締結を除いて、すべて法定の手続であって、右の手続に関与し得る資格及び権限(それは、裏腹の関係として義務ないし責任を伴うものであると解すべきである。)は、右の法規に由来し右の法規によって付与されたものであると解さざるを得ない。同規則一二条によれば、国鉄が当該名簿に記載した職員の選定に際し判断の基礎として資料を添付して設立委員に提出することになっているが、同条の規定の仕方から見て国鉄の右の資料の添付の義務が法定の・一種の公法上の義務であることは明らかであり、右に判示したとおり設立委員は独自に右の名簿に記載された職員のうちから採否の決定をすることができるのであって、右資料の添付がそのときの判断材料にはなることがあるとしてもそれに止まり、同条から形式的にも実質的にもそれ以上の意味があることをうかがうことはできない(そして、設立委員又は国鉄において右の法規上有する権限と裏腹の関係で負担する義務ないし責任が設立委員と国鉄とで共同になるためには、右権限が法規上のものである以上、そのことが法規上に示されていなければならないが、設立委員と国鉄の関係については、同法二三条五項のような規定は存在しないのである。)から、同規則一二条をもって設立委員と国鉄との関係をうんぬんすることはできないといわなければならない。したがって、設立委員と国鉄との関係をその実体ないし実質的な意味を解明しようとして準委任その他の既存の私法上の概念で説明することは、その意図に反して便宜論に過ぎないのであって、法的観点から厳密にいうならば、当を得ないばかりでなく、誤っているというべきである。こうして、設立委員に承継法人の従業員の採否において責任を生ずることがあるとすれば、それは、採用の基準の定立において同法その他の国鉄改革関連法令の趣旨を逸脱したり、国鉄が作成した名簿に記載されていない者について採用の決定をしたり、右の手続の重要な順序又は方式に違背したりした場合であって、仮に国鉄が採用の基準に外れた運用の基準を定立・適用して応募の国鉄職員の中から承継法人の職員となるべき者を選定したり、採用の基準に従ったとすれば承継法人の職員となるべき者を選定しなかったりしたとしても、設立委員には何らの責任も生じる筋合いではない。

そして、被告の設立委員が定立し国鉄の職員に対して提示した別紙1の採用の基準は、前に判示した国鉄改革関連法令の趣旨から見て妥当なものであり、原告らが主張する不当労働行為をもって被告の設立委員に固有の義務違反を問うことはできないし、採用基準の適用違反にしても原告らが国鉄において被告の設立委員に提出した名簿に記載されていない以上、その余の点を判断するまでもなく被告の設立委員に責任が生ずるいわれはないから、原告らの右の主張は、失当といわざるを得ない。

(二)  原告らの「不採用」の整理解雇性とその要件の不備について

原告らは、その「不採用」は解雇なかんずく整理解雇に外ならないところ、右整理解雇にはその要件が具備されていない旨主張し、国鉄が新会社の従業員になるべき者を選定し、設立委員に提出した各新会社の従業員になるべき者を記載した名簿に原告らが記載されていなかったことは、前に判示したとおりである。

しかしながら、改革法一五条は、国は国鉄が承継法人に事業等を引き継いだときは、国鉄を事業団に移行させ、臨時にその職員の再就職の促進を図るための義務を行わせるものとする旨を定め、事業団法一条二項は、事業団は臨時にその職員の再就職の促進を図るための業務を行うことを目的とする旨を、同法二六条三項は、事業団は一条二項の目的を達成するため臨時にその職員のうち再就職を必要とする者についての再就職の促進のために必要な業務を行う旨をそれぞれ定め、さらに同法附則二条は、国鉄は同六二年四月一日の時点において事業団となるものとする旨を定めている。したがって、国鉄は、右の時点で何らの承継手続を要せずに特殊の公法人である(同法一条、二条、二六条、四五条、附則二条後文等参照)事業団に移行し、国鉄が改革法二三条二項所定の名簿に記載しなかったその職員は、当然に事業団の職員になるのである。事業団法一七条は、「事業団の職員は、理事長が任命する。」と規定し、事業団の職員になるためには理事長の任命行為を要するかの如くであるが、右規定の趣旨は、おそらく事業団も法人格的には国鉄とは別個であることや、事業団の役員には運輸大臣の任命行為が必要であること(同法一〇条一項)などとひょうそくを合わせるための形式的な規定に過ぎないものであろう。そうだとすると、事業団理事長による原告らに対する格別の事業団職員としての任命行為がなかったとしても、原告らが事業団職員になり得ないあるいは事業団職員でなくなるわけではないというべきである。ところで、同法附則七条によれば、事業団が右の同法二三条三項に規定する業務を行う場合には再就職促進特別措置法の定めるところによることになっており、同法附則二条によれば、同法が昭和六五年(平成二年)四月一日に失効することになっているから、国鉄が改革法二三条二項所定の名簿に記載しなかったその職員で事業団の職員になった者は、再就職促進特別措置法により再就職しなかったときとは、同法附則四条の場合を除き同日をもって事業団理事長からの解雇の通知があると否とにかかわりなく失職することになり、あたかも右名簿に記載されずに事業団職員になった時点で、一種の期限付整理解雇の通知を受けた様相を呈するが、同法は、右の者を同日までには全員再就職されることを前提として立法されていると解されるから、法的には期限付整理解雇ということができないし、少なくとも同日をもって失効することを定める同法の第一章の国鉄退職希望職員に係る部分、第二章及び第四章の国鉄退職希望職員に係る部分以外の規定の施行(同法附則二条は、右規定の施行すなわち発効を前提とするものである。)の期日が昭和六二年四月一日である(同法附則一条二号、一号)から、前に判示したとおり同日に改革法及び新会社に基づく設立手続により設立された被告が再就職促進特別措置法による何らかの法的責任を負う余地はないといわなければならない。

したがって、原告らの整理解雇の主張は、その前提を欠くものであり、失当であることを免れない。

四原告らの雇用契約上の地位確認請求について

以上のとおりであって、原告らの被告との間における雇用契約上の地位の確認請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないというべきである。

五原告らの不法行為による損害賠償請求について

原告らの原告ら・国鉄間の労働契約関係の被告への承継及び設立委員の採用手続違背の各主張がいずれも理由がないことは二及び三に判示したとおりであり、また被告の再考義務違反の主張も、三1に判示したとおり、被告を応募した者が基本計画に定める被告の従業員となるものの数を下回ったときであっても、被告に右応募者を全員採用しなければならない義務が生ずるものではないから、いずれにしても原告らの被告ないしその設立委員によって侵害される被告の従業員となるべき地位を有していた旨の主張は失当であり、したがって原告らの不法行為による損害賠償請求もその余の点を判断するまでもなく理由がないといわなくてはならない。

六結論

よって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判示する。

(裁判長裁判官並木茂 裁判官春日通良 裁判官石原寿記は、転補のため署名・押印ができない。裁判長裁判官並木茂)

別紙1東日本旅客鉄道株式会社の職員の採用の基準

1 昭和六一年度末において年齢満五五歳未満であること。(医師を除く。)

2 職務遂行に支障のない健康状態であること。

なお、心身の故障により長期にわたって休養中の職員については、回復の見込みがあり、長期的にみて職務遂行に支障がないと判断される健康状態であること。

別表

原告らの処分歴

No.

氏名

発令年月日

処分内容

処分事由

1

高石正博

61.3.29

停職3月

60年11.28~29闘争

61.8.11

停職3月

61年2.15闘争

62.1.31

減給3月 1/10

61年春順法闘争

62.1.31

戒告

61年秋順法闘争

2

林熊吉

61.3.29

停職6月

60年11.28~29闘争

3

中村仁

61.3.29

停職6月

60年11.28~29闘争

61.9.29

停職6月

61年2.15闘争

62.1.31

戒告

61年秋順法闘争

4

角田清明

61.3.29

停職6月

60年11.28~29闘争

61.9.29

停職3月

61年2.15闘争

62.1.31

減給3月 1/10

61年春順法闘争

62.1.31

戒告

61年秋順法闘争

5

林利明

61.3.29

停職3月

60年11.28~29闘争

61.8.11

停職3月

61年2.15闘争

62.1.31

減給3月 1/10

61年春順法闘争

62.1.31

戒告

61年秋順法闘争

6

相原照二

61.3.29

停職3月

60年11.28~29闘争

61.8.11

停職3月

61年2.15闘争

62.1.31

減給3月 1/10

61年春順法闘争

62.1.31

戒告

61年秋順法闘争

7

江口治男

61.3.29

停職3月

60年11.28~29闘争

61.8.11

停職3月

61年2.15闘争

62.1.31

減給3月 1/10

61年春順法闘争

62.1.31

戒告

61年秋順法闘争

8

中村俊六郎

61.3.29

停職6月

60年11.28~29闘争

61.9.29

停職3月

61年2.15闘争

62.1.31

減給3月 1/10

61年春順法闘争

9

塩崎昭広

61.8.11

停職6月

61年2.15闘争

62.2.12

減給3月 1/10

61年春順法闘争

10

多田正雄

61.8.11

停職6月

61年2.15闘争

62.2.12

減給1月 1/10

61年春順法闘争

62.3.13

減給1月 1/10

61年秋順法闘争

11

伊藤隆

61.3.29

停職3月

60年11.28~29闘争

61.8.11

停職1月

61年2.15闘争

62.1.31

戒告

61年春順法闘争

62.1.31

戒告

61年秋順法闘争

*処分はいずれも日本国有鉄道法31条による。

3 日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること。

なお、勤務の状況については、職務に対する知識技能及び適正、日常の勤務に関する実績等を、日本国有鉄道における既存に資料に基づき、総合的かつ公正に判断すること。

4 「退職前提の休職」(日本国有鉄道就業規則(昭和六〇年六月総裁達第一二号)第六二条(3)ア)を発令されていないこと。

5 「退職を希望する職員である旨の認定」(日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律(昭和六一年法律第七六号)第四条第一項)を受けていないこと。

6 日本国有鉄道において再就職の斡旋を受け、再就職先から昭和六五年当初までの間に採用を予定する旨の通知を受けていないこと。

なお、日本国有鉄道本社及び本社附属機関に所属する職員並びに全国的な運用を行っている職員からの採用のほか、当社が事業を運営する地域内の業務を担当する地方機関に所属する職員からの採用を優先的に考慮するものとする。

また、広域異動の募集に応じて既に転勤した職員及び北海道又は九州内の地方機関に所属する職員からの採用については、特段の配慮をするものとする。

別紙2原告高石正博外の職歴など<省略>

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